4打目:入る前提で歩き出す男
むーは、グリーンに乗った瞬間だけ急に静かになる。ドライバーで曲げた時の言い訳は大きいのに、パターを持つと、なぜか職人の顔をする。残りは約1メートル。本人の中では、もうカップインした後の歩き方まで決まっている。

むー: この距離はもう挨拶みたいなもんや。今日は入る気しかしない。
言い方だけなら、確かに入った。声の低さ、目線の細さ、カップを見つめる時間。すべてが「これは決めます」という雰囲気を出している。だが、Jiボール君は冷静だった。

Jiボール君: その自信、カップには届いてない。
むーは聞こえないふりをする。グリーン上では、都合の悪いツッコミも芝目の一部として処理するタイプである。
短いパットほど、なぜか偉そうになる
ゴルフ場には、不思議な時間がある。残り1メートルくらいになると、急に人は強気になる。長いパットでは慎重だったのに、短くなった瞬間に「これは入る」「これは触るだけ」「もう拾ってもいいくらい」と思い始める。
むーも、その時間だけは強い。

むー: ここは強めに入れる。男は最後、タッチで逃げたらあかんのよ。
言葉の勢いはある。しかも少しだけ余計な含みもある。だが、Jiボール君は、むーの足元からすぐに返す。

Jiボール君: 逃げてるのは、毎回ボールじゃなくてスコアだ。
この一言で、グリーンの空気が少しだけ冷える。むーはそれを緊張とは認めない。むしろ、決める男にだけ訪れる静寂だと思い込んでいる。
打った瞬間に、なぜか歩き出す
むーが構える。ボールとカップの間にあるのは、ほんの短い距離である。だが、短いからこそ怖い。入って当然に見える距離ほど、外した時の言い訳が難しくなる。
そして、打った。
コロ……。
むーは、ボールがまだ転がっている途中で歩き出した。まるで、入るところを最後まで見る必要などないと言わんばかりに、カップの横へ向かう。表情は余裕。歩幅も大きい。本人の中では、すでに次のホールのティーショットのことまで考えている。
しかし、ボールはカップの縁をくるっと回った。
クルッ。
入らなかった。
むーの歩き出した足だけが、少し前に進みすぎていた。カップを通り過ぎたボールと、入った前提のむーだけが、グリーン上で気まずくすれ違う。

むー: 今のはライン読めてた。カップがちょっと照れただけや。
Jiボール君は、間を置かずに言った。

Jiボール君: 入ったのは言い訳だけ。
パターは距離よりも、油断が怖い
短いパットは、簡単そうに見える。だからこそ、構えが雑になる。距離を合わせるよりも「外したくない」という気持ちが先に出る。入ると思い込んだ瞬間、目線が上がり、手元が動き、タッチが少しだけ強くなる。
むーの場合は、そこに見栄も乗る。
| 入る前提のむー | 外した後のむー |
|---|---|
| カップを見てうなずく | 芝目を見て首をかしげる |
| 打つ前に余裕を出す | 外した後に急に研究者になる |
| ボールを最後まで見ない | 言い訳だけは最後まで語る |
| 「これは入る」と言う | 「読みは合ってた」と言う |
本当に怖いのは、距離ではない。自分の中で「もう入った」と決めてしまうことだ。ゴルフは、入る前提の雰囲気ではなく、実際にカップへ沈んだ一球だけを数える。
Jiボール君の今日の一言

Jiボール君: 歩き出しだけは、ナイスイン。
むーはこの言葉に少しだけ傷ついた顔をしたが、すぐに次の言い訳を準備していた。

むー: 次は大丈夫。今ので芝目が分かった。俺のタッチも、ようやく温まってきたわ。
Jiボール君は、静かに転がりながら返す。

Jiボール君: 温まってるのは、言い訳のほうだな。
今日もむーは、短いパットに大きな自信を乗せ、カップの縁で現実を知る。それでも次のパットに向かう姿だけは、どこか憎めない。ゴルフは、完璧な人だけのものではない。入る前提で歩き出して、外して、ツッコまれて、それでもまた構えるおじさんにも、ちゃんと物語がある。
次こそは、むーの歩き出しではなく、ボールがカップに入るところを見せてほしい。Jiボール君は、たぶん最後まで見届けるつもりでいる。
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このネタは、BaySwingCupのYouTubeショート動画「入る前提で歩き出す男」として公開しました。スマホで見やすい縦画面ショート版として、むーの自信満々な歩き出しとJiボール君のツッコミを短くまとめています。
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