3打目:寄せワンを語りすぎる男

3打目:寄せワンを語りすぎる男

むーは、ティーショットで全部バレた後ほど急に落ち着いた顔をする。さっきまで飛距離を語っていた男が、ボールがグリーン周りまで来た途端、まるで最初からここを狙っていたかのように腕を組む。

むー
むー

ゴルフはな、飛ばすだけやない。最後は寄せや。大人のゴルフは、ここから始まるんよ。

言い方だけなら、もう寄った。表情も、うなずきも、ウェッジを持つ手つきも、どこか職人っぽい。だが、Jiボール君は知っている。むーの「ここから」は、たいてい言い訳の助走である。

Jiボール君
Jiボール君

さっきまで飛ばすって言ってた人の口とは思えない。

3打目 寄せワンを語りすぎる男 説明より、距離感が正直。
むーとJiボール君の3打目ショート動画「寄せワンを語りすぎる男」

グリーン周りになると、急に名人っぽくなる

ゴルフ場には、不思議な切り替えがある。ティーショットで曲げた人ほど、アプローチ地点に来ると急に「ここからが勝負」と言い出す。フェアウェイに置けなかった現実は横に置き、ウェッジを握った瞬間だけ、スコアを取り返せる気になる。

むーも、その時間だけは強い。

むー
むー

寄せワン取れたら、さっきのミスは帳消しや。人生もゴルフも、最後は寄せ方なんよ。

少しだけ余計な含みがある。しかも本人は名言を言った顔をしている。Jiボール君は、足元から冷静に返す。

Jiボール君
Jiボール君

帳消しにしたいのは、スコアじゃなくて記憶だろ。

この一言で、グリーン周りの空気が少しだけ冷える。だが、むーはそれを集中の静けさだと思い込む。ミスの記憶を消す力だけは、今日もシングル級である。

打つ前の説明だけは、今日も完璧

むーはボールの前に立つ。カップまではそれほど遠くない。落とし所もある。転がせばよさそうな場面である。だが、むーは簡単には打たない。

まず、芝を読む。次に、クラブを少し開く。さらに、空を見る。最後に、誰も聞いていない理論を話し始める。

むー
むー

ここは上げるんやなくて、転がす。いや、転がすように見せて、ちょっとだけ止める。強すぎず、弱すぎず。寄せる時は距離感が大事なんよ。夜も一緒やけどな。

Jiボール君は、しばらく黙っていた。そして短く言った。

Jiボール君
Jiボール君

昼のアプローチだけに集中しろ。

むーはニヤッと笑う。本人の中では、緊張をほぐす大人の余裕である。実際には、打つ前に自分でハードルを上げているだけである。

そして、距離感だけが置いていかれる

むーが構える。クラブを短く持ち、膝を少し曲げ、いかにも繊細なタッチを出しそうな雰囲気を作る。ボールとカップの間にあるのは、技術よりも見栄である。

そして、打った。

コンッ。

音は悪くなかった。むしろ、少し良すぎた。ボールはむーの予定より元気よく転がり出し、落とし所を過ぎ、カップを過ぎ、本人の余裕まで連れていく。

むー
むー

お、おお……これはスピンを計算した強さや。

ボールは止まらない。むーの説明だけが、先にグリーンへ乗っている。ようやくボールはカップの奥、まだ微妙に緊張する距離で止まった。入る距離ではある。だが、拾える距離ではない。絶妙に、次の言い訳が必要な距離である。

Jiボール君
Jiボール君

寄ったのは、顔だけ。

むーは少しだけ傷ついた顔をしたが、すぐに胸を張った。

むー
むー

いや、これは寄せた。最後にパターで決めれば、全部同じや。

寄せワンは、語るものではなく決めるもの

アプローチは、簡単そうに見える。だからこそ、打つ前に語りたくなる。転がすのか、上げるのか。落とし所はどこか。スピンをかけるのか、タッチで合わせるのか。言葉にすると、すべて分かっているように感じる。

しかし、ゴルフは説明では止まらない。ボールは、言葉ではなく距離感で止まる。

打つ前のむー打った後のむー
「ここは寄せワンや」と言う「パターで決めれば同じ」と言う
落とし所を長く語る落とし所を普通に通過する
タッチを語る強さを芝のせいにする
大人のゴルフを語る子どもみたいに結果をごまかす

本当に難しいのは、ウェッジの技術だけではない。ミスした後に、どこまで自分を大きく見せないでいられるかである。むーの場合は、ボールより先に見栄が転がる。

Jiボール君の今日の一言

Jiボール君
Jiボール君

説明より、距離感が正直。

むーはこの言葉を聞いて、少しだけ真面目な顔になった。だが、その時間は長く続かない。カップまで残った距離を見た瞬間、また自信だけが先に歩き出す。

むー
むー

まあ、この距離なら入るやろ。ここまで寄せた俺の勝ちや。

Jiボール君は、静かにカップの方を見た。

Jiボール君
Jiボール君

その自信、次でまた試されるな。

今日もむーは、寄せワンを語り、距離感に裏切られ、それでも最後は自信だけでグリーンに立つ。ゴルフは、完璧なショットだけのものではない。語りすぎて、転がりすぎて、ツッコまれて、それでも次の一打に向かうおじさんにも、ちゃんと物語がある。

次こそは、むーの説明ではなく、ボールが本当に寄ったところを見せてほしい。たぶんJiボール君は、もうパターの心配をしている。

YouTube版はこちら

このネタは、BaySwingCupのYouTubeショート動画「寄せワンを語りすぎる男」として公開中です。スマホで見やすい縦画面ショート版として、むーの語りすぎるアプローチとJiボール君のツッコミを短くまとめています。

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